イミテーション

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季節は秋から冬に移り変わろうとしている。 その身を赤や黄の葉で染めあげていた木々も、今はそれらを完全に脱ぎ捨て、寒々しそうな姿で佇んでいる。 僕が高校を卒業してから、二十二回目の冬だ。 僕は元々ほとんど外に出ることはない。 大抵は家の中に籠もって、パソコンに向かいながら小説を書いている。 外に出るのは、小説のための取材だとか、出版社との打ち合わせだとか、その程度だ。 それらも今となってはほとんどパソコンがあれば、わざわざ出かけなくても済むものとなっている。 インターネットを開けば知りたい情報が山のように掲載してあるから、わざわざ図書館に出かけて調べ物をする必要もない。 出版社との打ち合わせも、よほど重要な物を除いては、電話か電子メールで済んでしまう。 それに加えて、十年前に美穂と結婚してからは、買い物にすら出かける必要も無くなったため、それが僕の出不精にさらに拍車をかけていた。 そんな生活を送っていると、当然のことながら、友人たちとも疎遠になっていく。 大学時代の友人はさることながら、高校時代の友達ともなればなおさらだ。 今となっては、電話でやりとりをする友人も片手で数えることができる程度になっていたし、年賀状にしたところで十枚もくれば御の字だ。 もともと僕には友人が少なかったこともあり、僅かばかりとはいえ今でも何らかの繋がりのある友人がいることは、ある意味において奇跡にも近いものかもしれない。 そんな僕の元に、高校時代の友人である木崎から電話がかかってきたのは、僕がちょうど新作の小説に取りかかろうとパソコンを起動させた時だった。 木崎とは、以前は電話でのやりとりをしていたが、僕の記憶では少なくともこの五年間は彼から電話がかかってきたことはない。 僕は出不精に加えて、電話をかけることも滅多にしなかったから、木崎とのやりとりは少なくともこの五年間全くなかったということだ。 彼と僕との間には、五年間という見えない壁が、どっしりと横たわっているのだ。 僕は何事だろうかと思いながら、携帯電話の通話ボタンを押した。
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