1人が本棚に入れています
本棚に追加
新幹線がゆっくりとスピードを落としながら、やがて完全に停止した。
僕は人の流れに従って新幹線を降り、階段を下り、改札を抜ける。
駅前に出てみると、そこには僕が高校生だった頃と変わらない町並みが広がっている。
あれからすでに二十年以上も時間が流れているというにもかかわらず、まるでここだけは時間が止まっていたのではないかと思えるほどだ。
僕は葬儀場に向かおうと思い、タクシーに乗ろうとしたその時、重要なことを忘れていることに気づいた。
僕は高橋先生の葬儀がどの葬儀場で行われているかを知らないのだ。
それを確認しなければ、僕はどこにも行くことができない。
もしかしたら、木崎であれば知っているかもしれない、そう思った僕は携帯電話を取り出し、着信履歴から木崎の電話番号を探し、発信ボタンを押した。
しかし、木崎は電話に出なかった。
おそらく仕事をしているのだろう。
一般のサラリーマンであれば、このくらいの時間にはデスクでパソコンに向かっているか、会議室でミーティングをしているか、あるいは必死に取引先を回り営業をしている時間である。
木崎が電話に出なかったとしても、なんら不思議はない。
僕がこれからどうするべきかと思案に暮れていると、突然誰かが背後から僕の肩を叩いた。
振り返ると、そこには木崎が笑いながら立っていた。
「よう」
木崎は右手を軽く挙げて言った。
驚いた僕は一瞬言葉を失ったが、少し間を置いて、気持ちを落ち着けてから、そこに立つ木崎に話しかけた。
「どうしてここにいるんだい? ついさっき、君に電話をかけたんだけど、出なかったじゃないか。君はてっきり仕事をしているんだろうと思っていたんだけど」
「ああ、本当は仕事なんだけどな。昨日、電話をかけたときにお前の様子がなんだか変だったから、もしかしたら高橋先生の葬儀に出席するつもりなんじゃないかと思って、ここで待ち伏せしていたのさ。電話では葬儀場も葬式の時間も何も伝えなかったから、もしお前がここに来たら、どうしていいのか困るだけじゃないかと思ってね。心配するな。車も用意しているし、葬儀にも間に合う。さあ、行こう」
木崎はそう言うと、ニコリと笑った。
最初のコメントを投稿しよう!