隊長として

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この日の夜、リリーはシャワーを浴びて自室のベッドに寝ころんだ。 しかし時計を見ると22時前だ。 まだ寝るには早い。 部屋にいてもすることがないので、格納庫に愛機を見に行くことにした。 そこに着くと先客がいた。 整備兵かと思ったが違った。 イルゼ・ディールス軍曹だ。 彼女は自分の機体のそばでラジオをチューニングしている。 チューニングを終えると“リリーマルレーン”が流れた。 ラジオから聞こえる歌声が機材で溢れている格納庫を満たす。 「隊長さん、来てたのですか?」 「今来たところよ」 「随分とお疲れのご様子で」 「えっ、どうしてわかったの?」 「声でわかりますよ」 声でわかるほど疲れているのだろうか。 リリー本人にはそのような自覚はない。 ただ、“人間関係”で疲れているというのはあながち間違いではない。 「悩みがあるなら聞きますよ」 「ブランデンベルガー曹長との関係のことだけど――」 リリーはグレーテルとの不和が部隊としての秩序に悪影響を及ぼすのではないかという危惧について話した。 イルゼはそれを黙って聞いた。 リリーが話し終えると沈黙が訪れた。 しかしそれは少しの間のこと。 短い沈黙を破ったのはイルゼの底なしに明るい笑い声だ。 「隊長さん、考えすぎですよ。グレーテルちゃんは素直になれないだけで、本当はあなたと仲良くなりたいと思ってるよ。だから部隊のことも大丈夫」 果たしてそうだろうか。 あれだけ敵視しているグレーテルが仲良くなりたいと思っているだろうか。 とてもそうは思えない。 ただ、イルゼにこのことを話して正解だと思う。 彼女の笑い声を聞いていると少し楽になったように感じる。 「ありがとうイルゼ。私の話を聞いてくれて」 「こんなあたしなんかで良ければ話ぐらい聞きますよ」 「これからも頼りにしてるね。あっ、もうこんな時間!」 時計の針はここに来たときは21時57分を指してしたが、それから1時間経って23時を指している。 「おやすみイルゼ」 「おやすみなさい」 リリーは格納庫を後にして、自室のベッドを友とした。
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