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翌日第1、2、3中隊の隊長が第Ⅰ飛行隊の隊長に呼ばれた。
「連合国軍が先月アントウェルペンを占領したことを知っているだろう」
アントウェルペンとはベルギー有数の大都市で、ヨーロッパ屈指の港湾都市でもある。
「だがそこの近くを流れるスヘルデ川の河口域は我らが押さえている。だからアントウェルペンは港として機能していない」
飛行隊長は地図を見せて説明する。
「その状況を打破すべく、ネーデルラント北部(オランダ)に展開している我が軍に攻勢を仕掛けてきた。今回の命令はそこを守る部隊の救援だ。7時45分に出撃できるようにしておけ。以上だ」
「ヤー」
「では解散」
リリーは第3中隊の隊員を呼び出して受けた命令を伝えた。
そして飛行服に着替える。
リリーは実戦に慣れているが、今回は初陣と変わらないほど不安でいっぱいになっている。
グレーテルはリリーの指示に従うだろうか。
イルゼに励まされたけれど、不安は消えることなく心の内に存在している。
着替えを終えると格納庫へ向かい、自分の目で機体の状態を確かめる。
格納庫と外を隔てている扉は開いており、重く垂れ込んだ雲の広がる空から風が吹き込んでくる。
季節は冬へと向かっているため、吹く風は冷たい。
冷たい風がリリーの頬を撫でる。
「きっと上手くやれる!」
そう呟いて自分を奮い立たせ、愛機へ乗り込む。
リリーの愛機のコクピットにはペンダントがぶら下がっている。
そこにはまだ幼い頃のリリーとエルヴィンの写真がある。
リリーは元気に笑い、エルヴィンはリリーを優しく包みこむような目で見守っている。
「お兄ちゃん、私を守って」
こうしている間に他の部隊の機体が飛び上がっている。
次はリリー率いる第3中隊の番だ。
「こちらホフマン中尉、滑走路への進入許可を」
「こちら管制塔、進入を許可します」
許可が下りたので、そこへ移動する。
「リリー・ホフマン、出撃します!」
リリーは機体を離陸可能な速度まで加速する。
そして重力に抗い車輪が滑走路を離れた。
操縦桿を手前に引き高度を上げる。
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