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1942年10月27日 北アフリカ エル・アラメイン
10月23日から連合国軍は連日に渡って大攻勢を行っていた。
この日も敵を迎え撃つべくレナーテ・ロンバルト上等兵たちは出撃した。
「10時の方角に戦闘機2個中隊をタリホー(目視で確認した)。機種はスピットファイアと思われます。隊長、指示を!」
レナーテが隊長、クリューガー中尉に指示を促す。
先ほど見つけた2個中隊はこちらに近づいてくる。
戦闘は避けられそうにないが、こちらの戦力は1個中隊。
倍の戦力差がある以上、勝つことは難しい。
「各機散開しろ! 無理をして敵を落とそうとするな」
「ヤー」
指示通り散開して、クリューガーは他の味方部隊に交戦状態になったことを伝え、救援要請をする。
レナーテはターゲットを決めて、それよりも高い場所に陣取る。
そして攻撃の機会を窺う。
ターゲットが味方機と交戦を始めた。
味方機のパイロット、ハインツ・ヒルト上等兵はレナーテの幼なじみで、今では恋愛関係にある。
そんな彼は現在危機に陥っている。
敵に背後を取られているのだ。
このままでは危ない。
「ああもう、見てられない!」
レナーテが動いた。
操縦桿を前に倒して機首を下げる。
そしてフルスロットルでターゲットに近づき、20ミリ機関砲を撃つ。
銃弾はキャノピーを貫通し、パイロットに致命傷を負わせ、風防ガラスを鮮血に染めた。
ターゲットはどんどん高度を下げていき、灼熱の砂漠の大地に墜落した。
「ありがとう、レナーテ。命拾いしたよ」
「しっかりしてよ。いつでも守れるわけじゃないんだから。」
「面目ない」
レナーテはハインツの顔を見る。
彼は照れて少し笑っている。
それを見たレナーテも微笑を浮かべる。
そして彼女は思った。
あの笑顔を見ていたいからハインツを守る。
「そういう話は周波数を調節してからにしてくれ」
クリューガーの注意と、他の隊員の笑い声が聞こえてくる。
「戦闘中でもいちゃつくとはやるねえ」
「冷やかさないでください、エンゲル曹長」
顔を紅潮させてレナーテが言う。
「そいつは失礼」
エンゲルが笑いの混じった声で謝る。
「ロンバルトを冷やかすのはそこまでにしておけ。それに軽口を叩けるほどの余裕がなくなってきてるだろ?」
「おっしゃる通りです」
エンゲルはそう言って話すのを止める。
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