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他の隊員も笑うのを止め、眼前の敵に集中する。
レナーテとハインツも戦闘に集中する。
2人の機体は戦っているうちに距離が開いていく。
それからどれくらいの時間が経っただろうか。
突然ハインツの苦しそうな声が中隊の各機に響いた。
「どうした? 何があった?」
クリューガーが尋ねる。
「右手をやられました」
「機体をコントロールできるか?」
「すみません。できないです」
ハインツが苦々しく言う。
「先に飛行場に帰れ」
「お先に失礼します」
ヒルト機は戦闘空域から離れていく。
右手が使えず操縦が困難なので、機体がフラフラしている。
そんな状態で滑走路に進入しようとする。
それは突然だった。
大きな爆音が響いた。
レナーテは音のした方角を見る。
レナーテの視界に入ったのは鉄の残骸と化したヒルト機が地面に落ちていくところだ。
周囲にパラシュートも人影もない。
ほんの数秒前までヒルト機がいた場所の真上をスピットファイアが飛んでいく。
この機がヒルト機を撃墜したようだ。
「いやぁぁぁぁぁ」
守れなかった。
守ると誓ったのに何もできなかった。
レナーテは無意識に機体の高度を上げた。
そしてフルスロットルで急降下を始めた。
落ちていく先にいるのはハインツを落としたスピットファイア。
それに極力近づく、20ミリ機関砲を撃つ。
しかし敵に致命傷を負わせる前に機関砲が弾切れになってしまった。
レナーテは敵に振り切られる前に13ミリ機関銃を撃つ。
撃たれたスピットファイアはエルロンを破損し、さらに燃料タンクから勢い良く火を吹く。
スピットファイアのパイロットはエルロンを失って動かしづらい上に、今にも爆発しそうな機体を放棄した。
パイロットはパラシュートを開き、緩やかに降下していく。
レナーテにハインツの仇を逃す気など毛頭ない。
レナーテは機体を急降下する前の高度まで上昇させる。
そして脱出したパイロットに向かって急降下を再び行う。
先ほどと同じように13ミリ機関銃を撃つ。
銃弾はパラシュートを突き抜けてパイロットを蜂の巣に変えた。
レナーテは恋人の仇を取ることができた。
しかし、ハインツの笑顔を見ることはもはや叶わない。
悲しみに暮れるレナーテだが、戦争中である以上、彼女に感傷に浸る時間は与えられない。
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