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無音。
その不自然な騒々しさから、徐々に意識がはっきりとしてくるのが分かった。
どうやら僕は、床に突っ伏しているらしい。
……いや待て。
"意識がはっきりとしてくる"?
そこに大きな矛盾を見破って、ガバッと跳ね起きる。
生きているのか!?僕は!?
それは、おかしい。
今でも鮮明に再生できる、死の瞬間。
あれほど凄惨な終わりを迎えたはずの僕が、まさか生きているなんてことが……。
そんな思考を他所に、まず目に飛び込んできたのは、白い壁。
清潔感のある色。
悪く言えば病的。
そんな四方を囲む"白"が僕から正常な判断力を奪う。
ここは……どこだろう。
病院の一室?
いや、それにしたって……。
どこかから明かりが入っているのか、白色の反射も相まって眩しいほど。
にも関わらずこの無音の部屋は、およそ人間的な要素が皆無だった。
まず部屋の内装。
グルリと見回してみても、これと言って目につくものはない。
本来"部屋"と呼ばれる場所にあるべきはずのベッド、椅子、タンス……家具の類いは一切見当たらず。
ただポカンと、何もない空間だけが口を開いて鎮座する。
それだけ。
ああ、こんなものは"部屋"なんかじゃない。
これは箱。ただの真っ白な箱なのだ。
「……出よう。」
こんなところ、一秒だって長居するべきじゃない。気がどうにかなってしまう。
僕はすぐに床から立ち上がり、それから……
……それから?
「……これって……」
悪寒が一気に背筋をかけ上がる。
そういうこと、なのか。
僕が抱く、この空間への、吐き気をもよおすほどの違和感。
その正体、は。
この部屋には、出口がない。
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