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「――――……って言われてもなぁ。」
と、目の前に座る三十路半ばの男教師は困った風に頭をポリポリ掻く。
「瀬奈、お前のその訳わからんこだわりのせいで留年かかってるわけだが。」
「はあ、それはお気の毒に。」
他人事じゃねぇよ、と溜め息を吐く教師。
「俺としては自分のクラスから留年者が出たなんてことになったらいろいろ面倒くさ……じゃなかった、いろいろ心配なわけだよ。」
「ご心配には及びません。」
「及んでっからこうして放課後、わざわざ面談に付き合ってやってんだろうが。」
「どうぞお気遣いなく。」
「さっきから物言い丁寧な割に失礼なんだけどお前。」
ったく、と渋い表情で腰を上げる教師。面談終了の合図だった。
僕もそれに習って席を立つ。
「素行も運動も勉強も、そこそこ優秀なお前がこんな問題抱えてること自体、本来あり得ねぇ話なんだよ。唯一、その謎の潔癖症さえ我慢すりゃあ……」
「あの、先生。」
無礼を承知で最後まで聞かず、
「お時間頂きありがとうございました。留年の件なら多分大丈夫です。小説で点数採れない分、他でなんとか補うので。」
「ちょ、瀬奈、まだ話は終わって……」
失礼します、とだけ言い残して面談室をあとにする。
先生には悪いけれど、長居は無用だった。
これ以上何を言っても理解されないのが目に見えているのだから。
国語や英語に出題されるフィクション。
前回のテストで出したほぼ白紙の答案が目に余ったのであろう、この面談。
「"読まない"のと"読めない"のとでは、また別の問題なんだよね。」
小さく呟いた。
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