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「チックショー、なんて奴だ!この世に、この俺のスピードについて来る奴がいたとは!!」
この俺-楠田 恭平は今、鬼の形相で後方から来る警察官から全力で逃げている。
何故こうなったかと言うと…ある女の子を助ける為に、友人の作戦により俺が囮になったわけで。
「チックショー!あの野郎ー、今考えたら俺にはデメリットしかねーじゃないかよー!!」
まったくもってその通りだ。
俺が警察官を引き付けた事により、一人残った奴は、助けて貰って喜んでる女の子とイチャイチャトーキングなうじゃねーか!!
なのに俺は、ムサイ中年の警察官と自転車でハネムーンだよ!!
「なにゴチャゴチヤ言ってるんだハァハァ!早くハァハァその盗んだ自転車を、あの男の子に返しなさい!ハァハァ」
「これはハァハァ、俺の自転車だぁぁあ!!」
「うんうん解るよハァハァ、自転車を盗んだ子は皆そう言うからねハァハァ。でもね、大丈夫!ハァハァ今持ち主に返せば、そんなに罪は重くないからハァハァ安心して返しなさい!ハァハァ痛くしないからハァハァ」
「いーやぁぁあ!!」
この時俺は生理的危機を感じ、疲れなど忘れ、無我夢中で自転車をこいだ。
後方から追ってくる警察官もとい変態の声が、どんどん小さくなっていくのがわかる。
夏の蒸し暑いじめじめした気候なのに、今俺はとても涼しい。
こんなスピードでこいでいるからであろう…相当な量の風が俺の身体を包みこむ。
周りの風景が、俺には一直線に見えた。
――風だ…俺は、風になったんだ…!
思わず両手を大きく伸ばしてみる。
「……っあ、やべ…俺死んだ。」
ハンドルがいきなり右にねじれ、体勢を崩し、俺は夏の大空へと無差別に放り出される。
さっきの『女の子』…天使の顔が、俺の頭をよぎる。
…俺はもう、満足だ…死ぬ前にあんな可愛い『女の子』に会えて…本当に良かった…。
もうすぐ、俺は地面に勢い良く叩きつけられるのだろう…痛いのは一瞬だろうか…一思いに死ねるのだろうか。
俺は残り命、0.数秒そんな事を考えた。
『バッシャーーン!』
だが、俺が叩きつけられたのはかたく無愛想な地面ではなく…いつの間にか迷いこんでいた公園の池だった。
びしょびしょになりながら俺は叫んだ。
「とんだピエロだぜ!!」
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