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しばらく壁を探っていると、分かりやすいスイッチのプラスチックの感触に出くわした。 伊織がそれを押すと、ちょっとした間を置いてから、思い出したように蛍光灯が一斉に灯り、部屋の中を映し出した。 「伊織ちゃんナイス!」 喜び勇む桜芽が走ってくる部屋は、暗闇の中で思っていたよりも広かった。上の建物と同じ広さなのかもしれないが、壁もなくワンフロアに作られている。 部屋の中にはデスクが均等に並べられ、上に乗ったパソコンを全て覆うように、一枚の大きな白い防塵[ボウジン]シートがかぶせられている。 やはり何かの研究所らしく、入ってきた出入り口の向かいの壁は棚になっており、色々な生物サンプルや瓶、実験器具などがずらっと並んでいた。 奥の方には動物の部位が茶色い液体に浮いているものまであった。 「…うぇ」 桜芽が山羊の頭の浮く円柱型のアクリル瓶を見て、気持ち悪そうに舌を出した。 伊織もそれに習って引きつった顔で、桜芽に目配せをする。 「早く出ましょう」 「異議無し」 部屋の奥に有る扉を指さし、二人でいそいそと其方[ソチラ]に向かう。 動物漬けの方を見ないようにしながら、先に扉に辿り着いたのは桜芽だった。 こんな所に軍人が居るとも思えないが、いつでも銃を抜けるようにしながら、扉を開く。 そっと桜芽が覗いたのは、階段だった。 しかし、それは下にしか向いていない階段だった。
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