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貴族達が皇帝陛下に媚び諂[ヘツラ]いながら近付いているのを、黒髪を長く伸ばした少年が二階の回廊から見下ろしていた。
白に金縁の美しい豪華なローブを着、年の割に高い身長で柵に頬杖を突いている。真っ直ぐ伸びた髪は女性達よりも長く、彼の足元で地面の少し上を揺れていた。
「何を見ている?」
「ん?父上か」
少年に一人の男性が近づき、声を掛けた。
癖っ毛なブロンドの、背の高い美しい男性だ。細身で、病的に白い顔をしている。
「寝てなくて良いのか?」
「いやぁ、姪っ子が出来るかもしれないからねぇ」
父親の言葉に、少年は頬杖を突いたまま鼻から溜息を吐き出した。その黒い双眸[ソウボウ]はどこまでもつまらなそうに、階下に居並ぶ絢爛豪華[ケンランゴウカ]な集いを見下している。
今は、第一皇子シブェル:ハイル・ライトニングの皇妃を選定しようと、貴族達に呼び掛けて行われた、社交界という名のお見合い中だ。
「っつってもな…。30過ぎのおっさんにあれは若過ぎないか?10代じゃねぇか」
「最年少は9歳だって」
「変態め…」
「それぞれに立場ってものがあるからねぇ」
彼は再び溜息を吐き、居並ぶ少女達に憐憫[レンビン]の視線を向けた。
ヴァナル家、ムファナド家、シスウル家、リーシュベルト家…。
「立場ねぇ…。何も優秀で美人揃いなのに、行き遅れの皇子なんかにたからんでもいいだろうに…」
「そういう事は、余りはっきり言わない方が良いと思うけどねー」
苦笑いの父親を無視して、彼は眠そうな目で一人一人と話している第一皇子に視線を移した。32歳にもなって、堅物な従兄弟[イトコ]は未だに一人の婚約者も、妾[メカケ]も居ない。
「立場…ね。この中に何人あいつと結婚したい人が居るのやら…」
「まぁねー、個人的には女の子達の立場を優先してほしいけど…」
言いながら彼も、少年の横で頬杖を突いた。
「ここは貴族が集まる宮殿だから」
「虫酸が走るね」
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