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そんな事を呑気に二人が話していると、階下で貴族達の合間にどよめきが起こった。
父親の方が首を伸ばして見下ろすと、周りからの視線など全く無視して一人の少女が叫びたてていた。
まだ小学生程の年齢にも関わらず、少女は皇帝と並んで立つ第一皇子の前で、啖呵[タンカ]を切っている。
その表情には子供らしからぬ、癇癪や我が儘[ワガママ]ではなく、理性の上での憤怒[フンド]が映っていた。
「私は結婚などしない!!貴様の子供なんて産まんからな!!父上がなんと言おうとだ!!」
「おー、快活だな」
啖呵を聞いて、少年も首を伸ばして見下ろした。
はじめに目に付いたのは、その眩しい程に煌[キラ]めく紅の髪色だった。整った容姿に大人っぽい表情を浮かべ、美しい姿とは裏腹にその口からは罵詈雑言[バリゾウゴン]が飛び出してくる。
ピンクの可愛いらしいスカートを引き裂いて大胆なスリットを入れ、父親であろう筋骨隆々[キンコツリュウリュウ]ないかにも軍人、という感じの男に羽交い締め[ハガイジメ]にされようとも、肩紐を引きちぎり一歩でも前に出ながらしきりに文句を叫んでいる。
「…元気だなぁ」
「あー、でもありゃお咎[トガ]めだろうね」
男は少女の口を塞ぐと、別の少年を呼んで彼女を預けた。服装が使用人や給仕ではなく豪華な衣装な為、恐らく息子だろう。
少女は少し年上で背も高い少年に手を握られて話し掛けられると、さっきの姿が嘘のように落ち着いた。
ただ冷静に、皇帝と皇子に対して必死に謝罪する父親を見つめていた。
「…ふぅん。面白い子だな」
ふと呟いた少年を、彼の父親は物珍しそうに見つめた。
普段彼は余り、人に関心を示さないからだ。
「興味が有るの?」
しかし少年は父親を無視して、さっさと消えていた。
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