プロローグ

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「そう案ずるな」 黒く長い髪を揺らして、彼は笑いながら言った。 「そなたの妹は実に活き活きしていて美しかったぞ。二人の名は何だ」 ポカンとした二人は、2、3度彼の言葉を頭で反芻[ハンスウ]してから、慌てて答えた。 「ヤヨイ・リーシュベルトで御座います」 「…イオリ・…リーシュベルトです」 二人の名前を少年は一度聞くと、すぐに覚えた。 そして、自分の白と金のローブを脱ぐと、イオリに近付いてその肩に掛けた。 「世間など気にしなくて良い。お主はそのまま生きろ。お父上殿にも、叱らぬよう言っておいてやろう」 「それはそれは!!ありがとうございます」 少年は喜んで礼を言うヤヨイに頷きながら、イオリの頭をぽんぽんと撫でた。 少女の頬がほんのりと朱に染まる。 少年はそんなイオリに、にっこり笑って言った。 「時に、その服の意味を知っているか?」 さっきまで自分が着ていた白いローブを指して、少年は聞く。今は彼より小さな少女の肩に掛かっている為、その裾は絨毯の上に引きずられている。 二つの首が横に振られるのを見て、少年は頷いた。 「その服は皇族の証で、それを着られるのは皇族だけだ。それを異性に渡すのは、主に求婚を意味する。“皇族になりませんか?”という意味だな」 「「へ?」」 この時ばかりは相手が皇族だという事も忘れ、二人は素の反応を返した。 そして先に意味を理解したのはヤヨイではなくイオリの方で、その顔が一瞬にして髪と同じように紅に染まった。 そんな彼女に、少年はとどめとばかりに明言した。 「私はお主に惚れた。お主、私の妻になれ」  
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