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校舎内を歩くこと数十分。オレは誰にも遭遇することなく、茹だる様な暑さの木造建築を、ただただ内側から睨みつけていた。
出口に成り得そうな場所を見つければ、すぐに向かうが……生憎どこも鍵がかかっていた。
しかし、一体どういうことだ?
この校舎……材質こそ違えど、配置についてはまんまウチの色彩高校だ。
つまり、ここは数年前の色彩高校なのか? オレはタイムスリップする白昼夢でも見ているのか?
この暑さだ。その可能性を否めない。
もしそうなのだとしたら、さっさと覚めてほしいものだ。
だが、現実はそう優しくはなかった。次の瞬間――瞬きした後に起こった事象が、オレに現実だぞと叩きつけてきた。
辺りが暗黒に包まれた。いや、この場合は、夜の帳が下りたというほうが、表現としては正しいのだろうか? どちらも同じか。
わけがわからない。
つい先ほどまで、窓から憎らしいほど痛い紫外線が照りつけていたというのに、いつのまにかそれが失せ、闇ばかりが辺りをつつんでいる。
こんな異常な状況についていけるほど、オレは二次元の住人ではない。
さらにオレを混乱に導いたのは、すぐそばにあった『職員室』であったはずのプレートだ。
誰もいなかった職員室。そこが、ただの教室に代わっていた。プレートも『1-4』となっている。
どういうことだ? 頭の回転が間に合わない。追いつかない。
めまぐるしく変わる景色は、理解の及ばない世界と化していた。
それでもオレの正気を保ってくれたのは、職員室だったはずの教室から飛び出した人影だった。
爽やかな好青年という印象を見受けられる彼は、オレを一瞥すると相好を緩ませた。おそらくオレと同様、人間を見つけたことによる安堵からくるものだろう。
「アンタ……この学校――じゃないか。色彩高校の生徒か?」青年が訪ねる。
それにすぐ返すが、緊張の糸が切れたせいか呂律がうまく回らない。
「あ、ああ。……えと、オレは、道守だ。一年生。あ、と……アンタは?」
「俺は前田志郎だ。二年生」
どうやら先輩だったようだ。前田先輩と改めよう。
「あの……ここがどこかわかりますか?」
「わかると思うか?」
「……ですよね」初めから期待などしてはいないが。もしかしたらという希望は捨てられなかった。
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