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ウォ゙ン ウォ゙ンウォ゙ン
わたしの叫び声に警戒したネロが吠える。
「おいあんた!近所迷惑だ!そして俺の……」
男は皆まで言わずにわたしの手からiPhoneを奪い取り、電源を切った。
「あー、最悪だ…。」
そう男が呟くのももちろん。
iPhoneはびちゃびちゃに濡れ、そのディスプレイには池に繁茂するコケやら藻がたくさん付着していたからだ。
「す、すみませ……((;Д;))」
わたしはびしょ濡れの体の自分が惨めだったのと、
その醜態を男性にいたわってすらもらえず(そりゃそうだ)突き放されたこととで、
文字通り身も心もボロボロで涙が出てくるのだった。
男のため息が聞こえる。
「まあそれはいいから早くそこから上がったら。風邪引く前にシャワー…着替えないと。貸すから。」
「えっ…」
わたしはうなだれていた頭をようやくあげた。
先程までよく顔の見えなかった男の姿と、
彼の苦い顔がよく見える。
歳は20代半ばといったところか。
髪はすっきりと短く、きりりとした眉と切れ長い目が印象的なさっぱりとした顔立ちだ。
水色のシャツと薄手の白いニットのセーターに、細身のチェックのチノパンを合わせていて、いかにも"いいとこの坊ちゃん"というイメージだ。
「そんな…、あの…」
つい一言前までは怖い印象があったゆえに、彼の意外な人当たりのよさにわたしは戸惑った。
「まあそのまま帰りたいんなら帰ればいいけどさ。」
男はあきらめたかのように踵を返した。
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