おっさんと少年

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遠くからサイレンの音が冷たい空気を引き連れ近づいてくる。 視界が狭まり、やがて意識は完全なる暗闇に飲み込まれた。 (まったく、夢も希望もありゃしねぇ・・・。) 『初めから、夢や希望なんて信じちゃいないクセによく言うねぇ(笑い)』 ひどく間の抜けた、若い女の声が言った。 (違いねぇ・・・・。) 『うんうん。違いねぇーちすあめりかーんだョ』 再び若い女の声。 (うん・・・・・・?) 『ん?んー?んん~。んこぉ~?はい。次、ぉ~だよ~ぉだよ?』  人が死ぬ瞬間、その人が歩んできた人生の記憶が走馬灯のように頭になだれ込むというが、この声にまったく聞き覚えがない。 (誰だ?俺の記憶に、こんなハイテンションなヤツは登場しなかったはずだけど?) 『おお?私の声聞こえるの?mjd?テンションーあがてきたぁ~!ヒーハーァー!ふぉぉ~!』 それにしても、この若い女の声はよく響く。 (うるせぇな。もう少し、声のトーン落としてくれ) 『これは失敬、しっけぃ。まさか、こんな簡単にサルペイヤに出会えるなんて思わなかったものだからつい、テンションあがっちゃってやね。』 (サル?なんだって?) 『そそー。しかもこんな恐竜のうんちみたいな大物なんて、そーやすやすと出会えやしない」 (意味は解らんが、なんとなく馬鹿にされているのはひしひしと伝わってくるぜ・・・。) 『あーあ。いやいや、まさか。その逆だよ。僕、全力で褒めてますます、スーパーマスヲデラクッスだョ』 (テメェ。それ以上しゃべったら、ぶっ殺すぞ!) 『ありゃりゃ?もしかして怒っちゃった?重ねて失敬、台形、三角形だよ。ああ、そうだ。こんなウジの沸きそうな頭の中で会話するのもなんだし、ちょっと場所変えよぉ』 パチン!(指を鳴らす音。) (痛っ・・・・!)  全身を脱水機にかけたみたいな強烈な遠心力と重力に、胃があった場所が締め付けられ、意識が見えない小さな穴に吸い込まれる。 薄れゆく意識のオヒレに吸い付くように、若い女の声が追いかけくるが、聞き取れやしない。 『・・・・・・。;お。。。・・い・・・・・・・て・・・・お・・・・・・・・・・・れ・・・う・・・・・・・・・・・・。』 漆黒の闇に針の穴から差し込む光の糸が垂れ下がり、やがて巨大に膨れ上がり、それと同時に 機能を一時的に停止していた俺の意識が再生されて行く。
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