お世話係は幽霊

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「ただいま。」 耀は玄関に入りながら言う。その声は大きめであった。家が大きいため、そうしないと聞こえないのだ。 玄関は車一台止められそうなほどの大理石の床。目の前に広がるのは二階へと続く大きな階段。それを照らすよう天井に取り付けられたきらびやかなシャンデリア。後わかるのは奥へと続く廊下のようなものがあるだけで、部屋らしきものは見当たらない。おそらく奥にあるのだろう。 誰が見ても、庶民の家でないのはわかるだろう。 「おかえりなさい。」 耀にとっては聞き慣れた女性の声が家の奥から返ってくる。そして、数十秒後、こちらに向かって来る足音が聞こえる。 その女性は耀の近くまで走って行き、耀の胸の中にとびこ────めなかった。 寸前のところで耀がかわしたのだ。 「ただいま。母さん。」 その行動に悪びれることもなく耀は、その女性に言う。耀の言葉からわかるように、耀に受け止められず、床に盛大にヘッドスライディングをきめた女性は耀の母親、橋田 美那(はしだ みな)である。 「うん。おかえり。耀君。」 笑顔で美那は返す。鼻と額は床に擦ったためか赤くなっている。それだけですんだのは、床に敷かれているカーペットの柔らかのためである。
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