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弐
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鉄格子を握りながら、ヒイラギは笑う。
「あははー俺、あんな風に負けたの初めてだったんですよ」
「…」
「すっごい楽しかったなぁ。一番興奮したのは君に刃を突きつけられた時だねー赤い血を流しながら睨みつけられた瞬間びびっとキたね!快感とか快楽っていうのかな?そんな感じ!」
俺は口元をひきつらせながらヒイラギの言葉を聞いていた。引き気味の俺に気付くことなくヒイラギは言葉を続ける。
「あぁー思い出しただけでゾクゾクする。でも一つ残念なのは君の本気が見れなかったことかな」
ヒイラギが俺に向かって手を伸ばし、指先で俺の顔を指した。そのまま指をゆっくりと下におろし心臓の上でぴたりと止める。
冷たい空気の中、声が響く。
「身の内に獣を飼っているでしょう?」
互いに真正面から視線を交わらせる。
「俺と同じ、血に濡れた獣を」
伸ばされた指が俺に触れることはない。
数秒、数分、沈黙がその場を支配する。
やがて指がゆっくりと下ろされ、ヒイラギがまたにっこりと笑った。
「次は本気、見せてくださいね」
「次なんてねぇよ」
間髪入れずそう返してやると、やはりヒイラギは楽しそうに笑うだけだった。
きびすを返し牢を後にする俺の背中にヒイラギの声がかかる。
「また、会いましょう」
俺はもう振り返らなかった。
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