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七
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「嫌だっ離せっ!」
足を振り上げ全力で抵抗する。しかしそれもあっさりと封じられ、手が素肌を撫でていく。
嫌だ
怖い
嫌だ
視界がぶれる。
頭ががんがんと痛くなり、とっさに目をつぶった。痛みをこらえ、次に目を開けた時には、眼前の景色が変わる。
白いベッドは黒いものに、天井の灯りは豪華なシャンデリアに変わる。
そして、俺を押さえつけるのは、
抵抗が止んだ。
先ほどまであれほど手足をばたつかせていたのに、それがぴたりと止まる。首筋に埋めていた顔を上げ相手の顔を覗き込み、違和感に気付く。
顔色は蒼白、瞳の焦点は合っておらず、俺を通り越して別の何かを見ている。
何だ、この反応は。
キスマークをつけていたからといって、本気でコイツが体を使って取り入ったなんて思っちゃいない。
初めてなら怯えるのは当然だが、この反応はおかしい。
これじゃまるで
頬に触れようと手を伸ばすが、触れる直前に体が大げさに跳ね弱々しい声が部屋に響いた。
「やだっ…やめっ……スミ…」
手がぴたりと止まった。
焦点の合わない瞳が、悲痛に歪む。
「こわい…助け…アヤメッ…」
震える声で、縋るように俺の知らない名前を呼んだ。
その瞬間、何にも言い難い感情が体を走り抜ける。
一度体を起こし相手を見下ろすと、小さな身体がかたかたと震えていた。自然と手が動き、頬に触れようとした。
コンコンと部屋の扉を叩く音が、その手の動きを止める。
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