恋心は突然に

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佐野の目に浮かんでいた事が、実際に起きたのはすぐのことだった。 両手をポケットに突っ込みながら歩く佐野。 その10メートル先。 佐野と同じように両手をポケットに突っ込み歩く男。 がたいは佐野より幾分小さい。 ああ、と佐野は思った。 向こうの男も佐野に気づいたようにスタスタとこちらに歩いてくる。 そして佐野から3メートル位離れた所で止まった。 幸村だ。           そしていつものように言う。 「おいテメェ佐野!!なめたマネしてくれたな!今度こそ負かしてやる!!」 なめたマネってのは多分、昼のことだ。 何度も聞いてきた台詞に少し呆れたが、佐野が口する事はただ一つ。 「なぁ幸村、俺もう喧嘩に興味なんかねぇから。何だったらもうお前の勝ちでいい。」 聞いた幸村は、目を見開いた。 けれどすぐに、 「あぁ!?テメェふざけんな!ぶっ飛ばしてやる!!」 佐野の目に浮かんだ通り。 眉間にシワを寄せ、怒りの籠もった目。 そしてコメカミには、ピキピキと青筋が浮かんでいる。 佐野に殴りかかろうと幸村は足を踏み出す。 攻撃をガードするために軽く構えを取る佐野。 地面を蹴り、前に出した幸村の足が地面にあったヘコミに入った。 その拍子に幸村がバランスを崩し、 そのまま佐野に抱きつくように倒れた。 佐野も思っても見なかった出来事に一緒に倒れ込んでしまった。 当たりはもう暗く、電灯が付き始めている線路沿い。 カンカンカンと遠くで踏切の音がする。 事故だった。 偶然、倒れ込んだ幸村の唇が佐野の唇に合わさった。 途端、頭が真っ白になったのは幸村。 バッと慌てたように体を起こし、佐野から離れる。 佐野も手をつき上半身を起こす。 呆然としながら目の前にいた幸村に目を向ける。 すると佐野は少しだけ目を見開き、心臓をトクリと鳴らせた。 そこにいたのは、電灯に照らされた幸村。 顔を真っ赤に染め、腕で口元を押さえて、動揺しているように目をキョロキョロと泳がせていた。 普段見せない幸村の反応に佐野が凝視していると、 パチリと目が合った。 すると幸村は突然立ち上がり、 「…っ死ねボケ!」 そう言い全速力で走り去って行った。 倒れてきたのはお前だろとか言いたいことはあったが、 佐野は無意識に唇に手を触れ呟いた。 「…やべぇ」 と。
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