771人が本棚に入れています
本棚に追加
/738ページ
それから一年ほど家に引きこもり、出仕する事の無い日々を送った。
時代は天下泰平の江戸期である。
水石藩の町方廻りが、現在で表すところの警察職とは言え、実際に人を斬った者などほとんどいなかった。
任務の最中により罪にこそならなかったが、人を斬ったという個人の命と人生を終わらせた事実は、当時の鷹利の心に罪悪感という硬い鎖をかけた。
『不世出の鷹、地に墜ちる』
町方の奉行所内では、同輩たちがそんなふうに彼を哀れみ、また妬みから嘲笑する者もいた。
村山鷹利はもう駄目だ。二度と職務に戻れないだろう。
だが、誰もがそう思い始めていた頃、再び彼は町方廻りの職に戻った。
最初のコメントを投稿しよう!