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戌の刻宵五ツ(午後八時)
村山鷹利はいつもよりずいぶん遅い帰宅となった。
この時分になると屋敷の門は村山家に仕える下男(従者、召使い)が閉じてしまっているので、横に据え付けられた小木戸口から入るしかない。
町方廻りの仕事をしていれば遅番や夜勤番があり、帰宅の際に玄関の門が閉じていることはよくある。だから木戸を使うのは馴れているのだが、今日の鷹利は手が震えて、いつものように上手く開ける事が出来なかった。
くそっ、くそっ。
二度心の内で毒づいて、力一杯に戸を引いてみる。
だが、ガタガタと鳴るばかりで、芯を噛んだのか、ますます動かない。
そんなところで、この物音に気づいた下男の末吉が、怪しがって外に出て来た。
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