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「だ……、誰だっぺ!?こんな夜分によ」
「私だバカ者っ、いちいち尋ねずに、さっさと開けろ!」
鷹利の荒れた口調に驚いた末吉は、馴れた手で素早く木戸を開いた。
「お帰りなさいまし、若さま。今日は常勤と聞いてましたが、またずいぶんと遅いお帰りで……」
木戸が開くと、さかやきが伸びて、だらし無い髪型になっている末吉の頭が鷹利の眼前に現れた。
「どけっ」
鷹利は今年で六十歳になる痩せた身体の末吉を強引に払い退けた。
まばらに生えた雑草のようなだらしない頭髪が目の前に現れたことが、潔癖性な鷹利の勘にさわったらしい。
さらに、自分が上手く開けられなかった木戸を、こんな初老の男が、すんなりと開けたことも腹立たしかったようである。
とにかく今の鷹利には何もかもが面白くないのである。
玄関で草履(ぞうり)を脱ぎ棄てると、足も洗わず自分の部屋へ入ってしまった。
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