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この町の人間は、元悪人ぞろいだけに気が短い者が多い。だが悪から足を洗って以来は住民同士結束の硬さが売りで、人情家も多い。
誰かれ構わず牢獄行きにしようものなら、こうなるのが当然の成り行きだった。
そんな光景を、道端に敷いた茣蓙の上に寝転がる寅之助は、嬉々として笑って見ている。
「いいねぇ、役人相手に一歩も退かねえたぁ……。やっぱり神谷町はこうでなきゃいけねぇ。さあて、兄者はどうする」
寅之助が言う兄者とは、押しかけて来た役人衆の中心で口上書を読み上げた武士、村山鷹利が彼の実兄だった。
兄はひたいに青スジを立て、騒ぐ住民を鋭い眼でにらむ。
「黙らんかっ、叩っ斬るぞ貴様らっ」
キンキンと響く声で村山鷹利は怒なり声をあげ、その声と言葉に弟の寅之助は、ひどい嫌悪感を抱いた。
あぁ、あぁ、やだやだ……。なんだあの言い草は。
寅之助は幼い頃から兄鷹利と犬猿の仲である。気に入らない点を挙げたらキリが無いのだが、特に、この甲高い怒鳴り声には虫唾(むしず)が走る。
思うようにならなければ怒鳴り、それで相手がおとなしくならないなら、力尽くで黙らせようとする。向かいあう人間のことなど考えようともしない。
道行く場所で自分以下をすべて平伏させようとする、その兄の傲慢さが気にいらない。
甲高い声はその身勝手さの象徴のように感じるのだった。
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