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そんな鷹利の怒声に住民たちも一瞬は静まり返ったが、またすぐに群れの中から「斬れるもんなら斬ってみやがれ」と罵声が飛び返った。
元々が失う物の無い人間の集まりである。血気の盛りでは彼らが一枚上であった。
しかし盛ん過ぎるには相手が悪い。
「いま斬ってみろって聞こえたが……、言ったのはどいつだ」
鷹利の顔に陰が射している。眼が妖しいほど真っ赤に血走っていた。
いけねぇ……!
と、寅之助は跳び起き、鷹利目掛け猛然と走った。
だが、一歩遅かった。
兄の剣には微塵もためらいがなく、ただ一番近くにいた住人を問答無用で胴切りにしてしまったのである。
その鮮血は勢い良く噴き出し、返り血となって鷹利をあっという間に朱く染める。
斬られた男は糸の切れた操り人形が、ひざから崩れ落ちるように倒れ、それを見た群集は悲鳴と共に四散した。
「何やってんだ、兄者っ」
寅之助は鷹利の刀の柄と顔面を鷲掴みにすると、力任せにそのまま押し倒した。
「本気で斬ってんじゃねぇよ、この馬鹿野郎っ」
寅之助は斬られた住人を急いで抱え上げたが、着物の間から内臓が飛び出していて、思わず顔を背けずにいられなかった。
言葉にならないかすれ声が、荒い呼吸と共にもれたが、もはや何を言っているのか聞き取ることが出来ない。
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