序章・虎と竜

9/10
前へ
/738ページ
次へ
「くそっ……、死ぬなっ!こんなくだらねぇ事で死ぬなっ……!」 寅之助は斬られた住人に何度も呼びかける。 住人は致命傷だが、まだ微かに息があった。 しかし息があっても、なす術はなかった。ただ吐血と流血に苦しみ、涙を流すばかりである。 「寅之助か……、この愚弟め。十手仕事の邪魔をするんじゃない!」 背後から兄、鷹利が抜刀のまま立ち上がっていた。 「どけ愚弟、貴様ごと叩き斬るぞ」 「やれるもんならやってみろ!クソ野郎!」 寅之助が怒りに任せて立ち上がろうとした瞬間、目の前に立つ兄は背後から何者かに着物の襟首を捕まれ、再びのけ反るように倒された。 現れたのは、藍色の着流しを着た長い白髪の男。 寅之助の眼前には、竜の姿があった。
/738ページ

最初のコメントを投稿しよう!

771人が本棚に入れています
本棚に追加