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てやんでいと言って、庄吉は机の底を蹴り上げた。
「あっしは本当に切られたのさ、あの妖刀幾星霜(いくせいそう)に!」
周囲にいた庄吉の大工仲間は笑うのをやめ、目を丸くしていた。
「ほれ、証拠にこの石を見ろい!」
庄吉が取り出したのは、一個の石だった。
皆は口を「ほお」と開き、その石に注目する。
その塊は黒ずんだ身に無数の小さなでこぼこがあるだけの、何の変哲もない石だった。
「何だそりゃ。川原に落ちているあいつらと、何も変わらねえじゃねえか」
「てやんでい。こいつはあっしが切られたとき、股の下にあった石よ。つまりはあっしと運命をともにした兄弟よ」
庄吉の話ではこうだ。
昨晩、庄吉は酒に酔い、長屋へ帰る途中に腹に何とも言えない痛みを感じたという。
そういえば、この痛みのあとに、決まって小便がしたくなると思い出し、庄吉は安芸羽(あげは)橋を降りた川原で用を足そうとした。
そのとき、人切りに会ったという。
人切りは目に月の輝きを閉じ込めた危ない野郎で、手に持つ光りものにも月がこもっていたそうだ。
その輝きを見た庄吉は確信した。
これはまさしく、妖刀幾星霜(いくせいそう)。
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