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周りにいた仕事仲間が身を引くなか、庄吉だけが得意げに鼻を高くしていた。
庄吉は大工仲間が一目を置く器用な男で力持ちとはいえ、妖刀を叩き割ったという話は、酒の肴にしかならなかった。
気持ちよく酔った庄吉が長屋へ帰ると、妻のそうが出迎えた。
「あんた。今日も飲みごとをして帰ったのかい? 家計は火の車の火だってもったいないっていうのに、いいご身分だね」
「なにおう。妖刀幾星霜から生き延び、あん畜生をへし折ったありがたい旦那に向かって、偉そうなことを言いやがって」
「またその話かい。いい加減にしないと、旦那を神棚に飾りそうだよあたしゃ」
「おう! 飾ってみろい!」
「それじゃあ、首でも切ろうかね。介錯(かいしゃく)してやるから、そこにお座り」
「うちの女房は口だけは達者だ。もっと旦那を労わりやがれ」
「折った刀を売ってくりゃあ、話は別ですけどね」
庄吉はてやんでい、と唸り、さっさと床へ入ってしまった。
「……ところであんた、妖刀幾星霜ってのは、なんで妖刀と言われてるんだい?」
そういえば、なぜか、庄吉にもそれは分からなかった。
「知るか。差し詰め、切っても切れないなまくらだからじゃねえか?」
「ふうん。そうかい」
庄吉はいびきをかいて眠っている。
やがて、そうも眠りに就いた。
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