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直後、
耳元で芋虫が甲高く雑音に近い叫びを上げる。
俺は驚き耳を塞ぎたくなった。しかし叫び声は数秒もしないうちに止み、芋虫の上半身は地面に鈍い音をたて倒れた。
「…………はぁ…」
溜まりに溜まっていた息をようやく吐き出せた。
手に残る固まったバターを斬る感覚。
そして芋虫の最後に放った耳障りな断末魔。
どれもが初体験で恐ろしく味わいたくない…
気付くと右腕には鳥肌がたっていた。
「大丈夫ですか?」
「平気……だ」
手が少し震えているのに気づきぐっと握る。
これが………戦い………この世界の…生きる術……
「初めて人はみんな同じです。あなたも、私も、初めは同じ。けど時間と共に慣れていきます。
初めて格闘技で対人戦をした時だって足がすくんだり、手がふるえ、呼吸が辛い。そんな経験があるでしょう? それは傷つけるのに慣れていないからです」
「慣れて…いない……?」
「生き物はみな最初は優しい感情を持っています。
しかし、身体の成長と共に精神も成長します。
慣れないことをする事は緊張し精神が静止をかけたりします。初めはそれが当たり前だと考えます。
しかしやがてはそれを慣れます。それは精神が“普通”だと感じるからです。
それが普通だと思うと精神は考えることを止めます。考える必要が無いと。そう思った時、生き物はやっと『成長が終わった』と感じます。
成長とは精神が考えることを初め、止めることだと、私は思います」
「物事に慣れること……」
「あなたもいずれ慣れ、なにも疑問に思わないでしょう。現に現実に居るいじめっ子は暴力や暴言を吐くことになんら違和感も感じていません。ニートやひきこもりだって、それが当たり前だと思っています」
「そうなる……って考えると恐くなる……。慣れることが……とても……」
「仕方ないことと…片付けるのは気が引けますが、それ以外私には思い浮かびません。すみません……」
「いや……いいよミカエル。えっと、ありがとう。ほんの少しだけど…気が楽になったよ。内容半分ぐらいしか覚えてないけど」
「ふふっ…別にいいですよ。ちょっと語りたかっただけですから」
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