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「悪い、ちょっとカット」
映画研究会の部長である風波建吾(カザナミケンゴ)、通称カントクの声に周りにいたメンバーの動きが止まった。
「カントクどした? 俺何かミスったか?」
俺、水嶋優人(ミズシマユウト)が訊くとカントクは──。
「いや別にミスはしてねぇけど、ちゃんと台本通りに動いてるけどよ」
「あ、もしかしてカメラに不備でも?」
イマイチ歯切れの悪いカントクにそう尋ねたのはイケメン優男の黒田正幸(クロダマサユキ)だ。
「えっと、あたしの演技がダメだったの?」
今回の自作映画の主演、大塚みゆり(オオツカミユリ)が苦笑いしながら訊いてもカントクはそうでもないと言う。
「ていうかハッキリしなさいよね。いったいどうしたの?」
台本を担当した小渕美紗(コブチミサ)の言葉にやっとカントクが口を開いた。
「なんつーか、根本的に台本マズくね?」
そんなの撮影始まる前に言えよ……。
「いやほら、いくらラブストーリーつっても高校の映研の自主制作映画だぞ? キスシーンは教師側からなんか言われねぇか?」
「でもカントク、キスシーンについては実際にキスをする訳じゃないよね。問題は無いと思うけど」
正幸はいつもの笑顔のままで言う。
「それに会長がキスシーンが見たいって言ったのよ? あたしらの大恩人の会長がね」
会長というのは生徒会長の入江理奈(イリエリナ)先輩のことで、映研設立に尽力してくれたという恩があるのだ。
「あのさ……」
「うん? どうかした?」
みゆりはカメラを指さしていた。現在進行形でカメラを手にする正幸が目を丸くした。
「録画しっぱなしじゃない?」
「あっ、ホントだ」
「何やってんだよ正幸。俺がカットつったらカメラ止めろや」
「あはは、ごめん」
「はいはい、早く続き撮るわよ」
何やらカメラを操作しながら苦笑いの正幸。ジト目でにやつくカントク。録画状態に最初に気付いたからといってどや顔のみゆり。そんなやりとりには興味が無いとばかりに身体を伸ばす美紗。
皆といると毎日が結構騒がしく、それがとても楽しい。
しかし、それで良いのだろうか?
俺にはその楽しみの輪の中に入る資格があるのだろうか?
最愛の恋人を盾にするような俺に、高校生活を楽しむ資格はあるのだろうか?
俺は皆と一緒にいて良いのだろうか?
誰でもいい。
俺がここに居場所を作ってもいいか、教えてください。
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