scene1 出逢い

2/7
前へ
/37ページ
次へ
話は数ヶ月前までさかのぼる。 入学式の朝。俺、水嶋優人(ミズシマユウト)は姿鏡の前にいた。制服の着こなしをチェックしているのだ。制服はブレザータイプで、ネクタイが少し不格好になってしまっているが概ね問題は無いだろう。 そう判断した俺は今日から通う仙蘭高校(センランコウコウ)に向かうため家を出た。 「あ、携帯忘れた」 家を出た瞬間にそんな声が聞こえ足を止めると仙蘭の制服を着た女子高生が隣の家に入っていくのが目に入った。 「隣、同じ高校なんだ?」 ぽつりと呟いたが別に珍しい話でもないと思い、また歩き出す。 ちらりと目に入ったのだが、彼女の入っていった家の表札には大塚と書いてあった。 校門近くに置いてあった掲示板によると、俺のクラスは1年1組。教室内にはまだ人が少なかった。 黒板には「入学おめでとうございます! 好きな席に座っててネ!」と書かれている。 いや普通出席番号で決めないか? そう思いつつも俺は窓際の後ろから2番目の席に座った。本当はいちばん後ろがよかったのだがそこにはすでに荷物が置いてあった。持ち主がいないということは他のクラスの知り合いの所かトイレにでも行ったのだろう。 「ね、隣座ってもいい?」 「ぅえ? あ、ああ、いいよ」 なんだか見たことのあるような女子生徒に突然声をかけられて変な声が出てしまった。彼女がクスクスと笑っているのはそのせいだろう。 わ、笑うなよ恥ずかしいから。 「偶然だね。同じクラスだったんだ?」 「え? 何が?」 「あたし、ずっと後ろ歩いてたんだけど気付かなかった? 電車も同じ車両だったんだけど……」 「んー……いや後ろにいたら気付かないッスよ」 「ああ、それもそうだね。あたし、大塚みゆり(オオツカミユリ)っていうの。よろしくね」 なんだか見たことがあると思っていたが、大塚という苗字を聞いて思い出した。今朝見かけた隣の家の女子高生だ。 「俺、水嶋優人。よろしく大塚」 「ん? もしかして隣に引っ越してきた水嶋さん?」 「うん、その水嶋さん」 「なんかすごい偶然だねっ」 第一印象は、よく笑う明るい子。初対面の人間に対して気兼ねするような素振りすら見せないところは何気に憧れる。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加