11人が本棚に入れています
本棚に追加
「みゆりと優人って帰りは電車?」
「うん、あたしも優人くんも電車だよ」
「あたしも電車なのよ。部活とかしてないなら一緒に帰らない?」
俺は全く問題ないが、大塚は何部に入るか悩み中だったはず。
「お前部活見学すんの?」
「んー、どうしようかな?」
「あれ? みゆり、入りたい部でもあるの?」
「えっと、なんていうか、演劇部に入りたかったんだけど──」
「ああ、廃部になってんのよね。ツイてないわねみゆり」
「ううん、仕方ないよ。それに演劇部に入っても女優さんになれるとも限らないしね」
「女優さん? 女優になりたいの?」
大塚の将来の夢に、小渕が食い付いた時だった。
「女優になりたいなら俺の部活に入らねぇか?」
短い黒髪の男子生徒だった。
入学式の時寝てた奴だ。
「あんた、隣の席の──」
「風波建吾(カザナミケンゴ)。ヨロシクな」
俺の真後ろ、つまり窓際最後尾の席の生徒だ。
「あの、建吾くんの部活って?」
「映研。映画研究会だ。女優やるならここだぜ?」
ツンツン頭の風波は得意げに映研を宣伝しだした。
実際にカメラで演技を撮るから自分の演技を客観的に見れるだの本物のドラマや映画の撮影現場の雰囲気を体験できるだの、そんな話だ。話しているうちに大塚は映研に惹かれていったようで、風波の話が終わると即座に入部を決定したのだった。
「あたし、映研に入るっ」
「てかこの学校、映研なんてあったか?」
入学案内のパンフレットには載っていなかった気がする。部活勧誘でも映研の名は聞かなかったし、掲示板にもそれらしいポスターは無かった。本当にあるのか不思議でならない。
そんな疑問を口にすると風波がポンと俺の肩に手を置いた。なんだよ馴れ馴れしい。
「気にすんな。……今から作る」
「……はい?」
自信満々に映研を語っておきながら「今から作る」と?
「ってあんた、部員はどうすんのよ? 何人かいないと部活作れないんでしょ?」
「あー、4人だ。5月までにあと2人集めねぇとダメなんだ」
呆れた表情の小渕に対し、風波は顔をひきつらせながら補足した。
「じゃあ、あたし映研入れないかもしれないの?」
大塚は大塚で、先程とは打って変わって不安そうに眉を下げている。ぬか喜びだと知ってしまえば無理も無い反応だ。
「あと2人くらいすぐ見つかるだろうよ。お前ら2人もどうだ?」
「あたしはムリよ。演技なんて出来ないわ」
最初のコメントを投稿しよう!