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探偵の部屋には、黒服に身を包んだ男が逆さに立っていた。
「ごきげんよう隠者。貴方は私、私は貴方」
ヘルの挨拶に、彼は恥ずかしそうに指だけで合図を送る。
そして腕を組む彼こそ、隠者だった。
「よし、それじゃあいくよ」
探偵、管理人、隠者が目を瞑ると、彼らを包む景色がぼやけ、重なった。
現れたのは一人の老人だった。
「まもむ、まもむ。〝学者〟である、オイラの知恵が必要とみた」
白髪の老人の手を取り、ヘルは漆黒の瞳を向けた。
「ええ、学者。私は貴方、貴方は私。私の身に起きた騒乱の不安を、貴方の頭脳でどうか死のような安らぎに変えてほしい」
「まもむ、貴女とオイラにそれは出来ない」
「えっ?」
「まもむ、まもむ。オイラの知識はこう導き出した。この会話も、すでに何億回もやりとりされていると」
「死を司る私にも、意味が分からないわ……」
「この館も、住人も、オイラも、そしてヘルである貴女も、あの機械によって作られた殺せる幻影」
「ど……どういうこと?」
「この幻を見ているのは、ヘル、君ではない」
ヘルは自身の手を触り、緑色の脚を見た。
学者の話では、そのすべてが幻影だという。
「私も幻影……じゃあ、一体誰がこの夢の幻を見ているの?」
「この幻影を見ているのは、そのワン公である」
学者はそう言って、ヘルの横に座る子犬を指差した。
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