醜生、豚ノ心得

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──フェンリルが目覚めると、目の前の氷塊に、ロキが座っていた。 辺りは草も生えぬ、冷たい岩肌と氷の山。 そこは氷の国、ニヴルヘイムと呼ばれる地だった。 「やあ、フェンリル。君にとっては幾億星霜ぶりだね」 子犬は、ただ疲れた瞳で青年の姿をした愚神を見つめていた。 「心配しなくても、さっきまで一緒にいたのは、本物のヘルじゃないんだ」 ロキは後ろに置かれた投影機を指差した。 「あの機械によって彼女のほとんどを記録し、擬似世界を妖刀によって切っただけさ。結果は崩壊、賭けは僕の勝ちだったなヘイムダル」 ああ、ヘイムダルはこの場にはいなかったな。 そう言って、ロキは折れた刀を振り回す。 「ただ悪い夢を見ていただけのような感覚だろう?」 刀はすでに錆び、投影機も綻びを見せていた。 「ヘイムダルを通じて、君の苦しみはずっと見ていたよ。ちなみに実際の世界ではラグナロク、あの戦争も終わってしまった」 本物の女王ヘルも戦争のさなか、死んでしまったよ。 ロキは微笑み、子犬にそう言った。 そこで初めて、子犬の瞳に涙が溢れた。 「これだけの思いをすれば、狼の怪物も豚のように泣き、もう父親に噛みつかないね……さあ、こっちに来て僕の足をお舐め」 子犬は生まれたての仔鹿のように立ち上がると、ロキの足元へ歩み寄った。 「おや?」   
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