流星群

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魔法瓶は弧を描いて飛び、そのあとは地面をごろごろ転がり、つるつると夜露のひかる草むらにざぶんと飛び込みました。 するとどうでしょう、草むらの中の空っぽの魔法瓶めがけて、流星たちが我先にと押し寄せてくるのです。 流星群は夜空の暗幕から自分たちの体をひっぺがし、目もくらむような色とりどりのシャワーとなって水平線の彼方から、とぎれることなく草むらの魔法瓶のなかに吸い込まれていきます。 色の洪水が丘をさまざまに明滅させています、いまこの丘では、すべての物が放つ色彩がひっきりなしにドッツ少年の頬を洗って、そして草むらの魔法瓶に穿たれた金属の虚無の中に消えていくのです。 ドッツ少年はその光景のあまりの鮮やかさに目を閉じ、うずくまってしまいました。 そして、たしかに隣に佇む兄の声を聞いたのです。 「さようなら」 ……… ……… ……… こうしてドッツ少年は、とある夜の夢から目覚めたのでした。 しかし、彼の瞼の裏側には、その晩に出会った、たくさんの色彩の記憶が刻印されています。 ドッツ少年は、この、現実の世界で、兄と話したことはありません。 兄のユーリスは、おかあさんのからだから外の世界に出る前に、死んでしまったからです。 だから本当は、名前もありません。 「ユーリス」という名前は、ドッツ少年が兄をそう呼んでいるだけなのです。 でも、あの一晩だけは、兄は自分に会いに来てくれて、そしてまた魔法瓶のなかに流星と一緒に帰っていったんだと、ドッツ少年は思っています。
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