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雲一つない晴天。
降り注ぐ5月の暖かな陽射し。
あの場を飛び出し、なにも考えずに走っていた今の雅にはそれすらも嫌味に思えた。
ーーー引き返さなきゃ。
引き返して幸一と話をしなきゃ。
頭ではそう思うものの、体がその通りに動かない。
「…今日は…もう帰ろう…」
力なく呟き、駅へと歩きだす。
できるだけ思い出さないように、一歩一歩を意識しながら。
ふっと過る嫌な記憶を払いのけ、いつもより早い電車に乗った。
和達と帰る電車と変わりはないのに、たった2駅が今日は異常に長く感じる。
ーーなんだかすごく疲れた。
ゆっくり座る時間ができ、じわじわと感じる疲労感。
「……はあ」
倦怠期を迎え、確実に離れつつあった互いの気持ち。
その距離は見て分かる程だった。
ーー別れる?
「……」
何度も繰り返した自問自答。
もうすぐそこで見え隠れしている結末を考えるたびに、辛くなってキュっと目を瞑る。
『間もなく、S町駅です』
降りる駅が近づくことを告げるアナウンスが聞こえ、雅はゆらりと席を立つ。
「奈々に…電話しよ…」
無意識のうちに口をついてでた言葉は、空気に溶けてしまうほど小さなつぶやきとなって消えた。
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