鬼夜叉

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「…………臭えな。」 「なっ────私がオナラしたとでも言いたいの!!? それは女の子に対するデリカシーが無いとか言う話を通り越してセクハラだよ!!! 言っとくけど私は────」 「んな事誰も言ってねえよ。」 オレがポツリと漏らした一言に激昂し私は無罪だと訴える唯を煩いのでとりあえず否定して黙らせ、 オレのこの真剣な表情に気づいてくれと心の中で願うも無駄らしい。 「…………腐臭だよ。 それも1つや2つの死体じゃなくて、もっと大量の……それこそ村1つの人間を殺して一ヶ月近く放置した感じの。」 こんな世界で一年以上過ごしている上に大陸を巻き込む戦争を経験したのだから当然なのかもしれないが、 オレが感じ取った異常を口にすると唯は我が儘娘の雰囲気を一転させ、冷たさすらも感じられる真剣なものに変えた。 まあ訳あってこの世界に来るよりも前からこの類の異臭には嗅ぎ慣れているが、 それでも肺から汚れていくようなこの胸糞悪さは慣れるもんじゃない。 正直言ってこんな異臭がするって事は確実に面倒事が起きているので関わりたく無いのだが、 唯が一応行ってみようと言うので仕方ないけど様子を見てみる事にした。 その異臭の発生源はオレ達が今いる海岸の近くにある漁村のようで、目を凝らすと少し遠くに帆の無い船が何隻か砂浜に置いてあるのが見える。 腐臭がするとは言ってもこう離れていては風に流されて正確な位置が分からないため、先ずは海岸沿いに歩き船の所まで行き、 そこから腐臭を辿ると……………… 「─────オエッ、だから来たく無かったんだよ。 もう既に蝿の帝国になってるじゃねえかよココ。」 黒黒黒黒黒黒黒黒黒。 腐臭を頼りに着いたその村は吸えば肺腑が腐るような汚れた空気に満ちていて、余りの臭さに嗅覚が麻痺してきた。 しかも村中に転がされた多分人間と思われる死体は一面黒に───蝿に覆い尽くされ、 それが苗床となり鼠算式以上に新たな蝿を産んでいるのだろう。 そして排気ガスで満たされた密室であるかのように何千何万という数が可愛く思える程の蝿が飛び交い、まさに蝿の帝国。 やはり諸事情でこんな感じの集落とかは何回か見て来たが、もう既にこの村は土地的にも死んでる。 いくら火炎放射機か何かを持って来てキレイに村を焼き付くしたとしても、この死んだ土地に住もうとする者はいないだろう。  
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