鬼夜叉

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「────ッ、何、これ…………こんなのが…………」 過去に何度かこれと似た光景を見た事があるオレは耐性ができているので大丈夫だが、初めて見た唯にとってこれ程キツイ物は無いだろう。 生のある世界にいるにも関わらず目の前に拡がる死の世界を見た唯はそれを表現する言葉も見付からず、 ただただ呆然と死の世界の前で立ち尽くす。 …………こんな世界で生きて来たとは言え、普通の女である唯がこれを見て吐かずに保ってられるのは、正直スゲェと思うよ。 オレが初めてみた時は三日間飯どころか水飲む度に胃の中の物リバースしてたし。 ま、こんなの褒められても全く嬉しくないけどな。 「どうして、こんな事が────ッ、何、してるの?」 戦争の悲惨さを訴えるために悍ましさを追求した結果描いている過程で自分が狂気に達した、 常識や一般の想像を粉々に打ち壊す油絵を前にフルフルと顔を振っていた唯は、 オレが篭手に炎を燈したのを疑問に感じ弱々しく尋ねてきた。 その理由を知りたいというよりは、どちらかと言えば目の前の光景から気を逸らしたいのだろう。 「ん? ああ、燃やす。」 「…………燃やす?」 意味が分からない、と。 今の唯の頭ではその単語の意味すら理解できないのだろう。 それ程目の前の光景は異様過ぎる。 「殺された後も尚蝿に犯され凌辱されるくらいならいっその事全部燃やした方が良いだろ。 キリスト教じゃ炎は魂を浄化するって言われてるらしいし。 ま、多分つーか確実にこいつらはキリスト教じゃないけどな────炎拳。」 篭手全体を覆う紅い炎はオレが右拳を放つと同時に巨大な炎の拳となり、虫食いのようにその悍ましい油絵に穴を空けていく。 何発か炎拳を撃ち出した後には民家も死体も綺麗サッパリに焼失していて、後に残されたのは灰と黒く焼け焦げた更地。 そこに人が住んでいた事を示すただ一つの証拠は、民家や蝿の物も混じった灰だけ。 虚しいな。 「…………………」 例え目の前から消えたとしても、脳に刻み込まれた光景はそれが異様である程に忘れる事ができない。 むしろ視覚できる現実から消えてしまう事で、その記憶に自分のイメージが加わり更に酷い物となるかもしれない。 なのでオレは唯がとりあえず落ち着くまで待ってやった。 「…………ねえロイド君、何であんな事になっちゃったのかな…………」  
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