鬼夜叉

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陸上選手並のスタイルの良さで比喩ではなく本当に疾風の如くオレに背を向け逃げていく唯。 流石は時也の女、仲間を見捨てるのも躊躇わないとは…………って、言ってる場合じゃねえ。 白い翼を生やして飛んでいるから天使と表現…………は些か顔がシュール過ぎる天狗は、 オレが触れられもしない事を最大限に生かすため白い翼を微調整しながら滑空。 そして何度も方向転換しながら全力で逃げるオレを追いかけ、後ろから突風や鎌鼬の嵐。 もう一度言うが目の前にいたとしても触れる事すらできないオレにできるのは不様に背中を見せて逃げる事だけであり、 草食動物と肉食動物の被食者と捕食者の関係が羨ましく思える一方通行な構図が出来上がった。 …………被食者の草食動物だって、連携とかカウンターで捕食者の肉食動物に反撃できるのによ。 『このっ、デカイ図体でちょこまかと動きおって!!! 不様に逃げる事しかできないのか貴様は!!?』 「うるせぇ!!! 攻撃が擦り抜け無かったらいくらでも真っ正面から闘ってやんよ長っ鼻!!!」 自慢の鼻を長っ鼻と言われた事が余程ショックだったのか、バランスを崩し墜落────した訳ではなかった。 やはり翼を羽ばたかせて前に進むよりも、地を蹴って進んだ方が得られる推進力は大きい。 天狗はそれを利用し、白い翼を大きく広げ低空飛行。 下手すれば地面に擦りつけられるリスクをクリアした天狗は、今まさに前方へ移動するために地を蹴ったオレへ急接近し、 慌てて重心を斜めに倒し逃れようとした時には既に遅い。 天狗にとってはまだ遊びの序ノ口に過ぎないが、オレにとっては死を意味する団扇のような麻の一撃が迫る。 「この────クソガァァァァァァァァア!!!!」 無駄とは分かっていても、やはり抗う事を止めれば人間を止める事になる。 残り香のような微かな魔力を脚甲に集中させて炎を纏い、強引に体を捻って迫る天狗に後ろ回し蹴り。 しかし物理的な攻撃が天狗と言うか妖怪というカテゴリーに通用するはずがなく、オレの最期の攻撃は虚しく空を斬る。 ─────グシャッという余り聞いて心地好いものではない音と十分過ぎる手応えと共に。 「─────ん?」 正直言って何が起こっているのかサッパリ分からず、しかし今オレが生きているのは事実。 そして天狗が地面に擦り着けられながら滑っているのもまた現実。
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