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小十郎は手入れと収穫を結構な時間を掛けて終わらせた。
おかげで、政宗の体はまたすっかりと冷え切ってしまった。
布団から出た直後と違い、日が差して少しはマシなのだが、どうしたって日陰は寒い。
手に息を吹き掛けて紛らわせていると、農具を片付けにこちらに向かってくる小十郎が目に入った。
慌て身を隠す。
自分の主君がまさかこんな所で隠れていようとは思っていないのだろう、まったく気が付いてない様子で、器具を小屋にガサゴソと仕舞う。
そして収穫した野菜を荷車に、これでもかっ、と云うほど積みに積むと、それを引っ張って屋敷に歩き出した。
また見付からないようにコッソリと後をつける。
小十郎が屋敷に入るのを確認して、自分も裏口から入る。
まるで、こそ泥の気分だ。
門衛は主君のいつもの行動に慣れたもので礼だけを済ませてくる。
最初の頃は、
『筆頭!どこに行くんッスか!』
『筆頭!お供いたしましょうかっ!』
と騒ぎ立てられ、
『政宗様!?こんな朝早くからご用事がおありなら、この小十郎におっしゃって下さい!』
当の小十郎からは軽い叱責を受けてしまった。
いや、用事はお前の後をつける事だ、と言えるはずもなく、寝ぼけた事にしてしまったのが悔やまれる。
何故ならその後しばらく、夢遊病の気があるとか、国王としての重圧がストレスになるだとか、色々言われてしまったからだ。
自分はそんなやわじゃねぇっ。
思い出して憤慨する。
身から出たサビとはいえ、過保護な家臣達。
気を取り直して厨へ向かう。
厨の入口で小十郎が下女達と親しげに話し込んでるのを見つけた。
収穫した野菜の半分ほどを降ろしながら談笑している。
いつもの強面は一体どこに消え失せたっ!
叫びたくなったが、自分の口をふさいで我慢した。
木の影からこっそりと観察していると、普段の小十郎からはあまり想像できないような、いい笑顔で対応している。
奥様受けの良さそうな顔だ。
別にどこがどうという訳では無いが、政宗は少し薄気味悪さを感じていた。
普段あまり見ない顔だからかもしれない。
ほがらかに笑う小十郎を見つめながら、少しのいらつきと、戸惑いと、不気味と、いろんな感情がないまぜになり混乱してきた。
政宗は自分の頬を両手で軽く叩いた。
「まったく…、Coolじゃねぇな。」
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