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小十郎の後をつけている時点でCoolからすでに逸脱している事に気が付いていない。
そんな奥州王の目の前で、その家臣の会話が耳に届いてきた。
「また白菜が美味しそうな事で、片倉様。」
「ああ、この秋は暖かかったから良い出来で豊作だ。」
「片倉様がお上手なんですよ。あたし達の旦那ときたら、ねぇ?」
「そうそう。『おっかぁにゃ、男の苦労なんて分かんねぇべっ。』とか言っちゃって。お尻蹴っ飛ばしてやったわよ。」
井戸端会議に溶け込めている不思議。
奥様killerだ。
政宗の脳裏に浮かんだ。
本人はまったく無自覚で会話に耳を傾けているだけだが、女達にとっては黙って聞いてくれる優しい片倉小十郎と写るらしい。
小十郎はいろいろ無自覚だ。
無自覚も甚だしい。
男女共に好意を持たれている事にまったく気がつかない、鈍感な男だ。
こちらとしては小十郎にモーションを掛けてくる輩に、割としょっちゅうハラハラさせられている。
鈍感だから気がつかずに終わりゆくのが常だが。
だいたい何故、こんなにも自分はハラハラするのか今ひとつ分からない。
小十郎は俺の家臣、ひいては俺のもの。
だから、他の奴が寄ってくれば腹立たしくて当然だ、と頭では納得しているのだが。
なにか、もう一つ二つ違う要素が含まれている気がしてならない。
何だと言うのだろう…。
自問して唸る政宗の耳に会話が続く。
「片倉様は今日も行かれるんですか?」
「ああ。」
「お気持ちも分かりますが、ほどほどになさいませ。」
「そうそう、伊達様に見つかってしまいますわよ。」
………なんだ、それは。
俺に見つかるとそんなに都合の悪い事なのか?
自問してる場合ではない。
飛び出してどこに行こうか問いただしてやろうかと思ったが、かろうじてこらえた。
なんの為に寒い中、外で後をつけて立ちんぼうで居たのか分からなくなってしまう。
水の泡にだけはしたくない。
だが、だがっ。
木の影で頭を抱える。
その間に、にわかに小十郎は動き始めていた。
政宗が気が付いた頃には、すっかり姿が見えなくなっていた。
慌て飛び出して辺りを見回したが、時すでに遅い。
「Goddamn!」
痛恨のミス。
暫し呆然とたたずみ、二度寝ならぬ不貞寝する為に部屋に引き上げた。
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