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それにしても八つ時はまだか。
いい加減一人で悶々としているのまでも飽きてきた政宗は小十郎を待った。
先程から、やけに静かだ。
雪がまた降り出したのかもしれない。
音を吸い取り、白一色に染め上げる雪。
静まり返った屋敷はまるで自分一人の世界の様。
そんな中、ひたひたと廊下を歩く足音が聞こえてきた。
部屋の前で止まる。
「政宗様、小十郎です。」
「入れ。」
お八つだ、待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。
小十郎が障子を引き、中へ入ってくる。
ちらっと見えた外の様子は、案の定、雪が積もり始めていた。
「また降り始めたみたいだな。」
「その様です。」
座布団の上に座ると、お盆の上に乗ったお茶と茶菓子とが前に出される。
今日はお饅頭だ。
茶で口を湿らせると、饅頭にかぶりついた。
「そういや今年はまだ雪見酒をしてねぇな。」
「今夜、一献やりますか?」
「いいねぇ。」
政宗はすぐに答えたが、ふと、まだ小十郎の早朝の謎を解いてない事がよぎり、訂正した。
「いや、もうしばらく待つ。」
「政宗様?」
「大した事じゃねぇよ。満月まで待とうってだけだ。」
「そうですか。」
本当のところは、明日も小十郎の後を付けようと今しがた心に決めたからだった。
酒を飲んだ夜が遅くなると絶対に起きられない。
妙な自信がある。
明日も寒い思いをするのは耐えがたいが耐えてやろうではないか。
こっちの苦労も知らず、まったく。
この男は涼しい顔をして。
一緒にお八つを満喫している小十郎を見遣る。
いつの間にか政宗の中では、小十郎の身辺が色恋沙汰でわやくちゃになってると決め付けてしまっていた。
もともと世の物事を定見する政宗。
情報を集め、意見も聞き入れた上で奥州を納めてはいるが、こと小十郎に関してだけは自分で見届けないと気が済まないだろう。
自分で想像がつく。
それにしても小十郎の人気は計り知れないものがある。
西海の鬼だの、豊臣の参謀だのと。
自分も自分の父も見込んだ男なのだから、当然と言えば当然だが。
心配だ。
色々と。
饅頭をまた一口かじる。
茶をすすり、ふぅとため息をつく。
「政宗様、小十郎の顔に何かついてますか?」
唐突に言われて、茶を吹きこぼしそうになった。
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