火鉢

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「失礼致します。今日は苦労せず起きられた様でございますな。」 略式に障子の手前で軽く一礼して、すっと開く。 「!?」 小十郎は固まった。 小十郎が中で見たものは、火鉢を五つ、身体の回りに置いた主君の姿だった。 とても満足そうだ。 「寒くて寝てらんねぇよ。」 不平とは裏腹に、上機嫌に鼻歌まで口ずさむ政宗はいまだ寝巻姿。 髪の毛はぼさぼさ。 布団は起きた状態のままにめくれ上がり、火鉢だけが準備万端に整った状態で設置されてあった。 心なしか小十郎が立つ廊下にまで熱気が伝わってきている。 「Hey!さっさと閉めろよ。せっかくのあったかい空気が逃げちまうだろう?」 「あ、はっ、失礼致しました。」 ぱしんっ、と軽い音を立てて障子が閉まる。 もっと言うべき事があるだろうに思わず謝ってしまった。 条件反射の様に答えてしまったが、閉めてからでは遅い。 長年に渡って身に染みつき、そうそう抗えられるような代物ではなかった。 「まぁ、座れよ。」 政宗が扇子で指した所は火鉢の輪の中央。 自分とちょうどもう一人、人が座れるように場所があいていた。 こちらに来い、と、トントンと扇子で床を叩く。 戸惑ってしまうのは仕方がない。 「失礼致します。」 無駄な抵抗はせずに小十郎は、どこから何を注意すべきか悩みながら指し示された所に正座をした。 なるほど、あたたかい。 背中と腕と外側からじんわりと熱が伝わってくる。 これならば、普段あたたまった布団から這い出せずに苦労している主君にも良いのかもしれない。 寝床から出た途端、冷え込んだ外気にさらされ、あっという間に体が冷えるような事もなくなりそうだ。 目の前の主君がニヤリと笑う。 こ、これは…。 小十郎は思った。 これは罠だっ。 普段の小十郎は、政宗が怒られるような事をすれば、当然しっかりとお諫め申しあげてきた。 この、火鉢五つ、の様なふざけた行いも、本来なら叱るべき事だ。 けれど、これはどうだ。 苦手な朝を、小十郎の助けを借りずに起きた、この褒められるべき状況。 火鉢のお陰だと、今さっき自分も認めてしまったのを、主君はそれを見抜いている。 政宗は上目遣いを巧みに使い、小十郎を落としにかかった。
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