火鉢

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「小十郎。いいだろう、これ。Nice ideaだと思わねぇか?」 内心の動揺を隠して、まずは普通に感想を述べる。 「確かに暖かくていらっしゃいますな。」 「だろう?」 「駄目です。」 間髪入れずに小十郎は答えた。 先手を打った。 政宗のおねだりは聞く耳もたないと、朝っぱらからその気難しい眉間に書いてある。 だが政宗も負けてはいられない。 食い下がった。 「Why!何故だ!珍しく一人で起きられたんだぜ?」 「駄目です。」 「こんなに良い方法を見付けたってのに!」 「駄目です。」 てこでも動きそうにない家臣に政宗は仏頂面を向けた。 さっきまでの上機嫌とは打って変わって、あぐらのままムスッと小十郎に告げる。 「理由を言ってみろ。」 言われた小十郎は眉間に皺を寄せたまま、器用ににっこりと笑った。 「去年の冬、足を投げ出して火鉢を蹴っ飛ばしたのは、どなただったでしょうか。」 「うっ…。」 「足にヤケドを負い、室内はあやうく火事になる所だったのは覚えておいでですか。」 「…。」 「懲りずに股に挟んで、また新たに別の箇所にヤケドを負ったのは――」 「Stop!分かった!悪かった!」 あっという間に白旗を上げる主君に、小十郎は安堵の溜め息をついた。 どうにか説得に成功したようだ。 頭を抱えて『去年の俺のバカッ!』と、自らを罵る主君に、ひそかに苦笑する。 小十郎は立ち上がり、囲っていた火鉢を一旦脇に避けて、寝巻きの政宗に着物を渡した。 「最近はとんと寒くなりましたからな。」 「まあな。」 のろのろと着物に着替える政宗の横でテキパキと布団を畳んで片す。 「それにしても、火鉢五つとはいささか多過ぎでございます。」 「ふん。」 「城には無かった物の様ですが、どちらで買ってこられたんですか。同じ銘柄の様ですし。」 「別にいいだろう。大した所じゃねぇよ。」 「と言うと?」 「朝市で安かったから買った。」 思い当たる節はある。 下働きの娘達が安い反物を買った、良い野菜が手に入ったと話していたのを思い出した。 野菜ならばどこにも負けぬ自信が有る小十郎も、そのうち見物に行こうとひそかに考えていた。 主君に先を越されてしまい、あとは自ら出店するほか無いと、また決意を新たにする。
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