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「それで、おいくらだったんですか。」
「五つsetでいっきゅっぱ、だ。」
「一万九千八百両。一つ三千九百六十両。」
「主婦みたいな数え方すんな。」
「お安いですね。」
「だろう。今なら土鍋と炊飯窯も付いて、さらにお得とかぬかしてたな。」
「それでは厨にあった見慣れぬあれらも…。」
「喜んでたぜ。」
「それはそれは。しかし衝動買いは感心致しかねます。主婦ではあるまいし。」
「主婦って言うなっ。」
世にも珍しい主婦の押し付けあいをする主従。
軽口を叩きながらざっと身支度を済ますと、朝餉の用意された間へと廊下に出た。
部屋の中に比べてずっと気温が低い。
政宗は腕で自らを抱えた。
つと庭先を眺めれば、遠くにそびえる山々。
険しい峰の続くそこは、既に白い雪化粧を施していた。
「小十郎、昨日の話だが…。」
「駄目です。」
「Shit!まだ何も言ってねぇだろう!」
「この小十郎に、政宗様が何をおっしゃりたいか分からないとでもお思いでございますか。」
だめだめ星人と呟く政宗に、小十郎は聞こえない振りをした。
「奥州の冬の足はそこまで近づいています。」
「んなもん分かってる。からこそ早々にまとめ上げりゃ、戦の一つや二つ――」
「出来ますが駄目です。」
言われずとも分かる冬の気配。
雪に閉ざされれば、急く気持ちが更に深まる事は容易に想像できる。
奥州から出られぬうちに誰彼に天下を取られたとなっては目もあてられない。
だからこそと主張しているのに、頑固で強情な家臣は、駄目、の一点張り。
先に歩を進めていた政宗は立ち止まって振り返った。
怒りを瞳にたたえ、家臣を下から睨みつける。
「…てめぇ、何か考えがあっての事だろうな。」
「ええ、勿論ですとも。」
こともなげに涼しい顔で小十郎は答えた。
「それは何だ。」
「奥州をまとめ上げたからこそ出来る御技です。いまだ竜が駆け登るべく天への道は一筋であらせられますから。」
「………いちどきに登る気か。周囲の小競り合いを捨て置き、先に突っ走るのか。」
にこりと小十郎は笑ってみせた。
「政宗様がお嫌いな手ではないと、小十郎は存じ上げております。」
「No doubt.」
ようやく得心した政宗の顔にも笑みが浮かんだ。
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