火鉢

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当然、小十郎が何も考えていないとは、はなから思っていなかった。 それでも聞かずにいられないなあは、これはもう性分としか言いようがない。 政宗は軽く笑ってみせた。 「ずいぶんと乱暴な手じゃねぇか。」 「この奥州、血気盛んな者ばかりですから。」 「よく言うぜ。」 至って冷静に努める腹心の事だから、その方法が随一とは思っていない事もありありと政宗には伝わってきた。 だが動かずにいれば何も起こらず終わっていく。 戦は生き物。 刻一刻と現状は変わり行く。 臨機応変に対応をすべく、その肩を担う小十郎。 雪解けを待つのは、その為。 心置きなく戦える場を整えられるのは、ようようと動けるようになってから。 「後で詰める。」 「はっ。」 一度、話を打ちきった。 ふと外を見れば、白くちらつくものが空から舞い降り始めた。 冬の到来を告げる雪。 いよいよ冬籠もりが始まる。 二人で空を見上げる。 「やれやれ、噂をすればなんとやら、だ。」 「今年は幾分、気が早い様ですな。」 「もうしばらく待ってくれりゃあな。partyも、また一つ出来たってのに。」 まだ諦めていなかったのか。 小十郎が呆れた顔で主君を見ると、当の本人からは唇をひん曲げた笑みが返ってきた。 「Jokeだ。」 「そう言って頂けると助かります。」 「嘘だ。」 「どっちですかっ。」 廊下を行く足を再開する。 冬は竜が眠る。 誰かがそう嘯く。 だが、その実は違う。 力を蓄え、情報を蓄え、たかだかの短い期間に切磋琢磨して雪解けに備えて動く。 それが奥州の冬。 竜の冬。 「小十郎、やっぱり冷えるから火鉢を――」 「駄目です。」 「こんなに寒いんだぞ?」 「ならば仕方がありません。」 「何だ。」 「この小十郎、政宗様のお体を暖める為に、はばかりながら一緒の布団に寝――」 「遠慮する。」 言葉遊びをしながら行く廊下。 庭先ではうっすらと雪が積もりはじめていた。 世は戦国、地は乱世。 群雄割拠の時代に、竜の冬が静かに潜めいて幕開けた。 それは密やかだが、本人たちは生き生きと活気にあふれていた。 その後、火鉢は各部屋に一つは配備される事となった。 寒がりの主君は大変満足したという。
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