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雪が降ったり止んだりと、せわしなく変わる天気が続く。
峰は更に白さを増し、風も日に日に冷たくなっていく冬の走りの夜。
最近、小十郎が早朝どこかに出掛けているようだ。
自分を起こしに来るのが遅い。
政宗は布団の上であぐらをかいて唸っていた。
眼帯を枕元に置き、腕を組んで、首を捻る。
悩みの種の小十郎の朝は早い。
静けさに満ちた日も出ぬ朝は、足音がよく響く。
まだ暗いうちから廊下をひたひたと忍ばせる足音。
政宗はそれが自分の腹心のものだと分かる。
足音だけで分かるとは、少しばかり変態じみているが、本人は特に気にしてはいない。
誰にも打ち明けていないのだから気にしてもしょうがない。
ここまでは普段の小十郎の行動そのものだった。
何故なら彼には畑がある。
通称『こじゅ畑』と政宗がひそかに呼んでいるそこは、小十郎が丹精込めて育てた野菜達の楽園。
朝は彼らの世話をして、収穫する為の時間。
腹心の心安まる癒しの時間。
それが終わると小十郎は、厨に野菜を届け、鍛練をしたりと、あれこれ用事をこなし、主君を起こす時間となるのが通常だった。
何故、寝てるはずの政宗がここまで腹心の行動が分かるかというと、時々こっそりと見に行ったりしている。
だいたい満足すると、布団に戻って二度寝したりしている。
二度寝が起きられないのは万国共通。
ゆえに、小十郎からは自分の主君は朝が弱いと定評されてしまっている。
政宗はそれを知ってはいるが訂正はしない。
小十郎に毎朝起こされるのが、楽しみの一つだからだ。
二度寝の楽しみを奪われたくないだけだったりもする。
その話はまた後日にしよう。
とにかく、小十郎が最近、野菜を収穫した後、どこかへ姿をくらましているのが気になって仕方がなかった。
直接に問いただせば、すぐに答えは分かるのだが、聞き出せずにいた。
そして、なんだか分からないが腹立たしい。
理由は十中八九、自分に何も言わずに消えることだ。
気になる。
そして、なんだか腹立たしい。
ここまで来たら、取るべき行動は一つ。
後をつける事。
もう、それしか無い。
「見てろよ、小十郎。俺を出し抜こうなんざ百年早ぇ…!」
ろうそくを吹き消し、寝床で丸くなった政宗。
布団の中からククククと不気味な笑い声が、部屋の中で反響した。
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