朝市

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翌、早朝。 政宗は例によって小十郎の足音で目が覚めた。 過言ではないが、ほぼ毎日と言っていい同じ時刻に通り掛かる足音の主。 …一体どんな体内時計を持っているのだろう。 まあ小十郎だから、それぐらい出来て、なんら不思議ではない。 そう思う。 小十郎だから出来て当たり前。 有り体に言えば、出来る男、小十郎。 悔しい様な気がするのは、気のせいだろうか…。 小十郎が通り過ぎてからたっぷりと間を置いて、暖かい寝床から這い出した。 しばれる。 ひしひしと。 慌て着物を着込み、腕をさすりながら行動を開始した。 廊下からは小十郎の姿はとっくに消え去っていたが、どうせ行く場所は分かっている。 誰にも見つからない様にコッソリと、いや、それよりも廊下が冷えて足をまともに運ぶことが出来ず、やむなく爪先立ちで歩く。 「こりゃ、やべぇ…。」 あまりの寒さに歯がガチガチと鳴り出した。 その場で足踏みをものすごい勢いで始める。 苦肉の策。 体を暖めるために、多少強引だが一番効果的だろう。 最初の一歩からつまずいてどうするんだと、我が身を叱咤する。 いっそ足踏みの勢いのまま『こじゅ畑』に突進しようと草履を履いて庭先から走り出した。 小十郎の畑は目と鼻の先にあるが、広い庭を走り回ったおかげで畑に到着する頃にはしっかりと体がポカポカになっていた。 朝日がのぼる中、小十郎は頭に手ぬぐいを巻いて、たすきを掛け、すっかり農業スタイルで野菜を収穫していた。 小十郎がおなじみの長ネギを手にとり朝日に掲げると、夜露がきらりと光った。 農具の入った小屋の影から幸せそうな腹心を見て、思わず笑みがこぼれる。 決して生暖かい目で見守ってる訳ではない。 なんとなく純粋に嬉しい気持ちになる。 寒さも忘れて、腕を組んで小屋に寄り掛かりながら小十郎の一挙手一投足を眺めては満足する。 時々こうやって見に来てしまうのは、これが自分にとっても癒しの時間なのかもしれない。 主従そろって癒し系では断じてないのだが。 せっせと手入れをしながら収穫した野菜は結構な量になり始めた。 普段、厨に届ける量をはるかに凌いでいる。 政宗は首を傾げた。 あまり一気に採っても、仕方が無いと思うのだが。 男所帯で余る事は無いだろうが、それにしたって多過ぎる。
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