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彼女は僕ではなく、どこか遠くを見つめる。少しばかりの沈黙の後、彼女は息を吐いた。
「羨ましいな」
「何が?」
「あの子には、簡単に人が集まるの。友達が出来やすいの、同じ顔で、同じ日に生まれたはずなのに。……どうして私には、あの子と同じことが出来ないんだろう。誰にでも笑いかけることができる、あの子が本当に羨ましい」
雪美はそう言って、俯いた。冷たい夜風が、僕と彼女の間を通る。
「でも、冬美は小学校低学年の時点で不登校になったんだろう? 君は中学に入るまで学校に行っていた。それは、君の方が辛抱強かった、というように思える。何も、妹さんだけが凄い訳ではないんじゃないか」
「……ありがとう。見ず知らずの人でも、そう言ってくれるなら、嬉しい」
彼女は初めて笑ってくれた。本当に微笑んだだけだったが、妹の明るい笑みではなくて、少し悲しげな笑い方だった。
はっきり言って、この姉妹は決して普通ではない。美人な方だと言えるだろう。それゆえか、僕は少し胸に来る愛らしさを彼女に感じた。
「君は、もしかして夜にここに来ているのか?」
「うん、夜が好きだから」
「うら若い乙女が、こんな夜更けに出歩くのは危ないと思うが。また、君に会いに来てもいいかな?」
「……別に、好きにしていいよ」
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