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しばらく抱き合ったまま幸せを噛み締めていたが、あまり遅くなっては悪い為しぶしぶ倒れた自転車を起こした。
「じゃあな。また明日」
「うんっ、また明日ね!帰ったらメールしてね?」
「は?メール?メールじゃ足りない。電話する」
「もう…恥ずかしいよ、隼人」
「ははっ、ごめんごめん。…じゃ、また後でな」
幸せそうに微笑みながら「うんっ」と頷いた棗を確認すると、大きく手を振りながら家へと向かって自転車を漕ぎはじめた。
「……」
……やっっっべぇぇー!!
幸せすぎるだろ!なんだコレ!ヤバい、にやける…!
ダメだ、こんな夜道に男が一人でニヤけてたら不審者すぎる!
抑えろ…俺!
心の中で全力で歓喜しながら全力で自転車を漕いでいた俺だったが、ふと視線を感じて後ろを振り返った。
が、誰もいない。
そこには闇が続いているだけだった。
…?気のせいか。
再び前を向いた次の瞬間、俺は反射的に急ブレーキをかけた。
――!!
な、なんで!さっきまで居なかっただろ!?
「こんばんは、隼人」
目の前には、タイヤスレスレのところで笑顔で立っている工藤玲香が居た――。
ぶつかりそうになったにも関わらず微笑して、慌てた素振りを全く見せない玲香の姿に、俺はしばらく呆然としてしまった。
こいつ、さっきまで居なかったよな?
この辺はまだしばらく一本道が続くため、曲がり角から急に現れたワケではなさそうだ。
俺が見えなかっただけか?
「お、お前、危ねぇだろ?危うく轢くところだったじゃねえか…」
「あ…ごめんなさい。……隼人に会えて嬉しくてそれどころじゃなかったの」
「……は、はあ」
照れ臭そうに上目遣いで俺を見る玲香。
……もしかして玲香、まだ俺のこと…。
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